Saturday, October 23, 2010

シングルマン



処女作が秀作ということはよくある。その人がこれまで考えてきたことが、培ってきたものが凝縮されているのだろう。

『シングルマン』もそうだった。トム・フォードという人のことはデザイナーとしてしか認識していなかったが、彼の初監督作品を観て、意見を変えざるを得なかった。

彼の映画監督としての才能はたいしたものだ。

『シングルマン』は娯楽と芸術の配分が素晴らしい。どこか和風ともいえる叙情的な映像、シリアスなストーリー、登場人物の繊細な心の動き、これらは芸術と言っていい。

そんな中で、私が何より感心したのは映画全体に漂う「美」である。その「美」は極めてエンターテインメント性に富んでいる。普通「美」というものは芸術の材料にしてしまいがちだ。それが一番手軽だからだ。だがそれは安易でもある。私のようなひねくれた人間の心には訴えかけない。

この映画で「美」はちょうど他の映画でいうところの「お色気シーン」に値する。たとえば、ベッドシーン、セクシーなヒロインのアクション、美女への暴力などだ。これらはまぎれもなく観客へのサービス・シーンだ。観客がそういうものを求めているからだ。

『シングルマン』を観る観客はどういう人間か?

様々な人間が観るだろうが、とくにファッション好きとゲイの割合が観客の多くを占めることは想像に難くない。
そして、ファッション好きとゲイが見たいもの。それはお洒落な衣装や舞台装置、そして、美しい男である。

これらが実にいいタイミングで画面に登場するのだ。
ある時はお洒落な学生として、ある時は教師の完璧なヘアスタイルとして、またある時は、ほんの一時言葉を交わす美青年として、そして、鍛え抜かれた肉体として。

私は何度もうなってしまった。うーん、うまいな、と。なんてサービス精神が旺盛なんだろう。

観る前は少し心配だった。もしかするとただのお洒落映画なのではないかと。

が、そんな心配は無用だった。確かにお洒落な部分はあるが、『シングルマン』はただそれだけの映画ではなかった。先にも述べたように、お洒落さや美しさは、観客サービスとして、ほどよい程度にあるだけだった。

きっと、他の部分に自信があったから、これほどサービスシーンたっぷりの作品に仕上がったのだろう

そしてその自信にも頷ける完成度だった。

まだ観ていない人は是非映画館に足を運んでみるべきです。



それから、十二月公開予定のこっちもすごく観たい。出演者がどちらも好きなので。ゲイの多い映画館で観たら盛り上がりそうだなあ。

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