Thursday, May 27, 2010

エキゾチックジャパン


最近アクティブな人間へと変貌を遂げた私は、映画だってわざわざ映画館で観るのを好むようになった。
巨大スクリーンはやっぱりいい。うちの42インチしかない(考えてみたら姿見よりうんと小さいんだから物足りなくて当然だ)テレビとは比べてはいけないとはわかっているが、やっぱり迫力が違う。これはどうしようもない。
音だっていい。昔と違って最近の映画館は椅子だってそれなりの座り心地だし、埃っぽい匂いもだいぶましになった。
映画館を嫌う理由が見つからなくなってきた。
DVDのほうが気楽だというのはある。映画館では、他のことをしながら鑑賞するというわけにはいかない。トイレにだって立てない。
しかしだ。90分なり120分なり140分なり、椅子に縛り付けられて、ただ映画を観るというだけの行為に没頭するのには、やはり映画館が向いている。いくら自宅が気楽でも、居心地が良くても、それは否定できない。
余計なことに気を散らしてしまったせいで「駄作」の烙印を押されてしまった映画がいったいどれだけあるだろう?そりゃあ、ものすごく面白い映画だったら気を散らす隙も与えないほどなんだろうけれど、そこそこの映画だったら、読書やネットサーフィンの誘惑に勝つのは難しい。それについ、何かをしながら見てしまう。そのほうが時間の節約になるじゃないか、と耳元で貧乏神がささやく。そうなると私は言いなりだ。いや、これまでは言いなりだった。
生活が変わり、外出する機会が多くなると、自然と「ついでに」映画を観るということができるようになった。
「ついで」に行けるとなると、映画館へ行くことに対する意気込みみたいなものがぐっと減って、何かこう映画館に行くという行為が生活に密着したものになってくる。映画館はもう休日の娯楽ではないのだ。
前置きが長くなってしまったが、この間も私はそんな風にふらっと映画館に行った。観たくなったからその足で行った。
観てきたのは『エンター・ザ・ボイト』 というどちらかといえばマイナーの部類に入る作品だ。何か洒落た雑誌でこの作品の監督ギャスパー・ノエという人のインタビューを読んで、彼が勧めているフランス映画が『アンダルシアの犬』と『顔のない眼』という私が個人的に好きな作品であったことから、「この人の撮るものもきっと好みに合うに違いない」と勝手に思ったのが、この作品を観ることになったきっかけだ。

異国東京の歌舞伎町で暮らす、ドラッグのディーラーの兄オスカーとストリッパーの妹リンダのちょっと変わった愛の物語だ。
仲むつまじく暮らしていた二人だったが、ある日オスカーが警察に撃ち殺され、彼の魂は肉体を離れ、リンダの周囲を漂うことになる。
つまり、魂となった兄ちゃんが妹のセックスや着替え、トイレでの営みなどを覗くという、アダルトDVDに、とりわけソフトオンデマンドのDVDにありそうな内容なので、こうやって説明するとものすごくばかばかしく聞こえる。もう、実際映画館に行ってもらわないとわからないだろう。
よくある『観るドラッグ』的な映画の一つなのだが、映像もよくできているし、なんと言っても舞台が日本だから親しみやすい。

私がこよなく愛する、「外国人ならではのとんちんかんな日本」もそれなりに出てきて、妙にほっとした気分になった。
たとえば、日本のストリップ・クラブには用心棒がいることはあんまりないだろうし、警官があんなに簡単に発砲したかと言われれば、日本人の私としては首をひねってしまう。

外国人のフィルターを通せば、珍しくもなんともない歌舞伎町も「エキゾチックジャパン」になってしまう。
いや、外国人のフィルターを通さなくても、じっくり目を向ければ、どんな街だって十分異国的だ。いや、異星と言ったほうがいいかもしれない。
確かに歌舞伎町は個性的な街だ。映画が公開されていたのも歌舞伎町だったので、観終わったあと、久しぶりにあの街をうろうろしてみたのだが、やっぱり何かが変だ。
質屋や金券ショップが異様に多いし、映画の通り見るからにがらの悪い人がうようよしている。
若い女の子も、たとえば原宿や表参道なんかとはちょっと違う。髪に、服に、脚の開き方に変に隙があって、文化的なことにあまり興味がなさそうで、こう言っちゃなんだけれど、簡単に騙せそうなオーラが漂っている。
今はなき歌舞伎座の前でかったるそうにたむろするホストなんかも、外国人の想像力をかき立てる格好の材料になるだろう。
歌舞伎町の住人をじっと見ていると、山谷に行った時のことを思い出した。
どちらも自己完結してしまっている街という点では似ていると言えなくもない。そしてどちらの街の住人も、欲望に対してすごくシンプルに対応しているように見えた。三大欲求を満たすことがすべてであり、それ意外のものにばかり興味を注いでいる自分がややこしい、馬鹿げたものに思えてくる。
そこから学ぶものは多いが、私はあれらの街、特に歌舞伎町をホームタウンだと思えることはないだろう。たとえ住んだとしてもだ。
あそこにいることを好む人たちの気持ちを私が理解することはできないし、趣味一つをとっても彼らとは合わないだろう。歌舞伎町の人々と私の距離はあまりに遠い。ロサンゼルスのバーニーズで買い物をしている時のほうがよっぽど、その場にいる人との距離を感じないくらいだ。
しかし、その距離こそが歌舞伎町を「異国的だ」と思うゆえんなのだろう。

5 comments:

  1. エンター・ザ・ボイトのこと知りませんでした。東京が舞台みたいですね。トレーラー見ました。英語を使ってるようですね。この舞台がヨーロッパなら、嘘ぽくなるものも東京なら未知の世界というところにあると思います。映画見てみたいです。ラーメンガールなど新宿が外国映画に出てくるのは少しうれしいです。話は変わりますが、この前まんが王国という西武新宿駅前にあるマンガ喫茶に止まりました。椅子が倒れなかったので寝心地悪かったです。場所も古く汚い感じでした。ヤマダ電機は新しくトイレもきれいですよ。

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  2. 毎回杏里さんの写真は楽しいです
    そして文章も
    杏里さん 梅やしそが嫌いらしいですね

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  3. 先日に こちらのブログを偶然辿り着きまして 文章 面白いなあと 食い入るように読みました。

    杏里さんのことは その先日に知りました。

    さらに 小説も書いているとのこと

    特に「めざめたら、非合理美人。」に興味を持ち、さっそくメニュー登録致しました。

    ただ、microsdが携帯に入っていなかったため...ダウンロード出来ていません。

    早々に買いに行って、読ませて頂きまーす!

    これからも ブログ楽しみにしてます。。

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  4. オープニングクレジットがメチャクチャかっこよかったすねぇ。
    体調を整えて、もう一回観に行きたくなりました。

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